1945年、終戦直後のレニングラード。第二次世界大戦の独ソ戦により、街は荒廃し、建物は取り壊され、市民は心身ともにボロボロになっていた。史上最悪の包囲戦が終わったものの、残された残骸の中で生と死の戦いは続いていた。多くの傷病軍人が収容された病院で働く看護師のイーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は、PTSDを抱えながら働き、パーシュカという子供を育てていた。しかし、後遺症の発作のせいでその子供を失ってしまった。そこに子供の本当の母であり、戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が戦地から帰還する。彼女もまた後遺症や戦傷を抱えながらも、二人の若き女性イーヤとマーシャは、廃墟の中で自分たちの生活を再建するための闘いに意味と希望を見いだすが...。
巨匠アレクサンドル・ソクーロフの下に学んだ、30歳を過ぎたばかりの新鋭カンテミール・バラーゴフ監督は、ノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作『戦争は女の顔をしていない』に衝撃を受け、この証言集を原案に、戦後の女性の運命をテーマに本作を完成させた。プロデューサーは、『ラブレス』(17)や『裁かれるは善人のみ』(14)をはじめ、ハリウッドでも実績のあるウクライナ出身のアレクサンドル・ロドニャンスキー。そして、主人公の女性二人は、新人のヴィクトリア・ミロシニチェンコとヴァシリサ・ペレリギナが見事に複雑な心理状態を演じきった。終戦から77年。これは戦争を知らないスタッフ、キャストらが今も起こっている戦争の恐ろしさを伝える作品である。
本作は、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でプレミア上映され、国際映画批評家連盟賞と監督賞をダブル受賞したほか、50を超える世界各国の多くの映画祭で上映、30を超える映画賞を受賞。ロシア国内ではゴールデン・イーグル賞・主演女優賞を受賞したほか、第92回アカデミー賞®国際長編映画賞のロシア代表にも選出された。さらに、元・米大統領のバラク・オバマが選出する年間ベストにも選出され、米映画批評サイトRotten Tomatoesでは93%FRESHと驚異の高評価(2022年3月時点)で世界を席巻した話題作である。